※2024/7/10 制作「落魄倶楽部」さんの追加の規約、NG項目がありましたので、当該記事の該当部分を削除しています。
→作者様より「NG項目に抵触しておらず問題ない」とのお返事いただきましたが、削除したままで記事は残します。
2024/3/28にあたたかな幽霊をプレイさせていただいた感想記録です。
キャラシートはありますが、壁打ちは残っていないので、自分視点配信のひとりごとや事後感想がメインになります。
以下より、「あたたかな幽霊」のネタバレを含みますので、プレイしていない方の閲覧は非推奨です。
長いので章スキップ推奨です😌
ハンドアウトとキャラクターの設定について
①HO選択理由
今回私はHO1を希望通り担当させていただきました。
HO1を選択した理由はBoothに記載されているプロローグにあります。
少し様子がおかしい。
あなたが話しかける前に、友人は口を開いた。「人を殺した」
熱された油に水を零したような、アブラゼミの鳴き声が響く。その中であなたが聞き取れたのはその一言だった。
(Booth販売ページより引用)
このようにHO2がおどおどと死体を自己処理できずに頼みに来るシチュエーションを見て、私のロールプレイには向かないと思いました。
ここの「熱された油に水を零したような、アブラゼミの鳴き声」という喩えがすごく好きです。
②キャラクター作成
これが今回作成したキャラクターシートです。
各要素の設定理由を書いておきます。
1.名前
今回相方プレイヤーがきゃにーさんでした。
きゃにーさん:明るいPL。「ちょーだい!」だけでなぜかPL達の秘匿やアイテムを自然な流れでもらっていく。犯人からすらもらっている。
きゃにーさんとは狂気山脈で「この事件が終わったら結婚式を挙げよう」とRPの中で話していたので、今回ペアでその設定を流用するためにあたってPCは「私」である必要がありました。
そのため私のハンドルネーム「さきはる」を元に「咲温」と名付けました。
はるの字が「温」なのは「あたたかな幽霊」の「あたたか」からきています。
2.性別・職業
狂気山脈の結婚式RPとのつながりを持たせたいため、性別は女性固定・職業も医師固定でした。
3.性格
一枚の画像に収めるのが良い!と考えていたため、性格を四字熟語で表そうと四苦八苦していました。
まさか他のPLが文章でたくさん打っているなんて知らなかったです。
「泰然自若」(落ち着いていてどんなことにも動じないさま)を選んだ理由は私がPLの時の理想だからです。
そしてたまにはクールなRPをしてみたくて、そういった性格にしてみました。
4.過去
これも狂気山脈でのRPと繋がりを持たせるため、「登山」「結婚式」を入れました。
ここでPC2と結婚式の約束をしたと入れるかどうか迷ったのですが、シナリオと矛盾が生じたら嫌だという理由で、「結婚式を夢想した」と書きました。
5.相手(PL: きゃにー)のHO2のキャラ
PC2:伊集院 音
PC3:伊集院 夢
キャラクター画像を使用する許可いただいたので添付します。
初見の感想としては、結構ごついシスターぽいお嬢さんきたなという感じでした。
私が狂気山脈RPで来たのに、向こうは全然違うテンションで来たことがわかりましたが私は負けません。
ハンドアウト読み込み
初見の感想は忘れました。自分視点配信から自分のひとりごとを拾いました。
①Boothでのあらすじ・HO設定との矛盾
BoothのあらすじではHO2もHO1を愛していると明記されているのに、HO1のHO内では「HO2はHO1を愛してはいないでしょう」と書かれているのがとても気がかりでした。
なぜそうなったのか?がこれから明かされるのかもなあ、と頭の隅に置いておきました。
②機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)
伏線だと思っていました。
デウスエクスマキナは不自然な存在が闖入することによって物語を強制的に終幕させるという表現技法です。
そのためマーダー「ミステリー」ですから、デウスエクスマキナを用いたノックスの十戒打破系アンチミステリーのような謎解きが必要なのかなと思っていました。
この深読みが後々こんがらがる原因になります。(思えば、HO2とHO3という双子設定はノックスの十戒には触れる)
本編
①HO「決意」+探索パート
「決意」というHOの読み合わせが始まります。GMライラックさんの重くしっとりした読み上げがとても好きなのですが、ここで私が一番おどろいたのはPLきゃにーさんの読み上げがいつもと違うことでした。
前述したようにきゃにーさんは明るいPLです。RPでは自分らしさと明るさがとても強く「120%きゃにー」といわれることもあるくらい明るい方です。ですが、ここの読み上げではすごく声のトーンが落ち着いていました。ずっしりと重く、おしとやかな印象を受けました。
「今回のきゃにーさんは``違う``」と思いながら、探索パートに入ります。
探索パートはHO2音の家の中で死体解体・隠蔽に必要なものを探しながら、状況、相手の表情をカードによって知ることができます。カード取得進捗によって相手PCの感情や表情を知ることができる、というシステムがとても珍しくて好きです。
GMに「死体の解体・隠蔽に使う道具カードは、下の道具置き場に置いてとありましたが、カードの公開・非公開は問わないですか?」と質問した理由:
・システム上どうなっているか明らかにしたかったから
・相手を殺せるものを見つけられたらできれば秘匿したかったから
私の行動指針は包丁を見つけることです。
探索順が先行の私は「音がね、血を落とさないでぺたぺたぺたぺた歩くから、台所が汚くなってたから台所から行くね」と切り出しました。
この台所が汚くなっていると話した理由:
HO1の【時系列順】4にHO2が血を落とさずに台所で行動していることが書いてあったため、そう話しました。ただ本編中にその描写がなかったので、HO2きゃにーさんは知らない情報だと変に思ったかもしれません。
台所に真っ先にいった理由:
包丁を探すためです。HO1の【目標】にはHO2を殺しなおすための道具を手に入れること。刃物などあればいいだろう。と明記されています。
結局、包丁は見つかりませんでした。
次に音(きゃにー)が洗面所に向かいました。
ここで私が「手ぐらい洗ってきなね」と話したのも、HO1【時系列順】4にHO2が血のついた手でコップを握っている描写があったことに由来します。
死体隠蔽の道具を探すのに真っ先に向かうのがなぜ洗面所なんだ?という疑問を抱いたかどうか忘れました。今の私なら変だなと思います。
次も私は台所を探索しますが包丁は見つかりません。「あれ」と声に出ています。
音(きゃにー)さんがクローゼットを探索して、救急箱を見つけます。
音(きゃにー)「これで手の傷なんとかできるかな?」
咲温(さきはる)「手の傷?」
音(きゃにー)「うん、手に傷があるのわたし。」
咲温(さきはる)「ふーん。どっちの手?」
音(きゃにー)「右手」
咲温(さきはる)「ふーん。そっか。なんか動きぎこちないもんね」
ここで、あの時助けてくれた時の傷は右腕だったなと思ってた気がします。
音(きゃにー)「なんかいっぱいガラスの破片が手にはいっちゃって」
咲温(さきはる)「ふーん、ガラスの破片?」
音(きゃにー)「うん、灰皿で殴ったの」
あの時の助けてくれた時の傷と重なるような場所にあるのかと思っていた気がします。
猛烈に壁打ちする自分のタイピング音が配信に乗っているのですが、残っていないのでこの時の私が何をおもっていたのかはわからないです。
玄関でキャリーバッグがみつかります。
きゃにーばっぐです。
以上です。
この後感情カードを見られるのですが、見ている時間が数秒未満だったので、この時の私が何を思っていたのかわかりません。なにも声に出ていないことから、あまり何とも思っていなかったのだと予想できます。
収納で音きゃにーがナイフを見つけました。先に取られているので、これがあとの議論に繋がります。
その一方で私は「映画のパンフレット」を見つけていますが、「これは思い出の品だから非公開にしておきたい」で隠せてほくそ笑んでいました。きっと。
ここで薬について音きゃにーにも問いかけましたが、以下の点が気になりました。
薬カード:
・薬が家の複数個所から見つかる(収納・台所)
・薬カードそれぞれでテキストが違う(収納の薬カードは「乱雑にしまわれている」で台所は「ピルケースにわけられている」)
⇒複数人で住んでいる?
咲温(さきはる)「ほかのひとと一緒に住んでいるとか、ない?」
音(きゃにー)「ううん、ない」
咲温(さきはる)「ふーん、そっか」
配信アーカイブ見直して書いていますが、「ふーん」ってよく言いますね咲春。
死体カードを自身のみ見ることで顔が潰されているのがわかって、私がタイピングしています。
おそらく「顔をつぶす=誰だかわからないようにしたい意図がある=親だって話しているのになぜ?」みたいなことを書いていたんだと思います。
また、死体カードには首を絞めたときの索状痕の記載があるため、「音はもう死体は見たくないよね」とカードを秘匿したのは良いムーブだったと思います。
ひとつだけ持ち物を持っていけるため、何をもっていくかという議論になりました。
音(きゃにー)「わたし薬飲まないといけないから、咲温が持っているのほしいんだけど……」
ガッツポーズです。ナイフを手放してくれました。
咲温(さきはる)「だけど、ナイフと交換してくれないかな」
音(きゃにー)「いいよー」
咲温(さきはる)「何かあった時、今度は私が誰かを殺すよ」
音(きゃにー)「ありがとう」
これで、殺せます。
②HO「解体」「灼ける日」「同衾」
不気味なBGMとともにHO読み上げが始まります。このBGMがあたたかの中でも好きなBGMです。
GMライラックさんの読み上げの良さが光るHOです。ライラックさんの声が渋く低いのもありますが、「ぎこ、ぎこ、ぎこ、ぎこ」や「ぎこ、ぐこ、ぐこ、ぐこ」のオノマトペの読み上げがとても重く感じられます。言葉のアクセントの位置を変えることで聞き手に違和感を覚えさせ、それで重さや恐怖を引き出しているのだと思います。
その後、GMから「音と一緒に寝るか?」という質問がチャットにきて「寝る!!!!!!!!!!」と送ったのを覚えています。据え膳食わぬは男の恥ですから。
HO「灼ける日」の読み込み時間。「何度も寝返りをしたいのを我慢し、つばを飲み込む音さえも気を付けながら」がとても初々しくて、相手に嫌われたくない、傷つけたくないという気持ちが伝わるいい表現だなあと思いました。
据え膳食わぬは男の恥と思っていましたが、そういうことはありませんでした。
HO「同衾」読み込み時間では、私が殺したのは本当にHO2の親か?HO2自身か?ということを考えそれに転じて、このHO2が別人だと思っていることと、今のところはHO2音を殺すつもりで動いているというのを配信で明言していました。
③カフェパート
会話で特定の話題や単語を聞き出すことで情報カードを取得できる、特殊なシステムのパート。
「命の恩人」などヒントのワードが情報カードに記載されているが、それをそのまま発言しても情報カードは取得できないというのがまた難しい。
初めにどのレベルでカード取得できるのか確かめるために適当に話題を振った。
咲温(さきはる)「家では冷たい飲み物、カフェではアイスクリーム……冷たいものばっかり食べたらお腹壊しちゃうよ?」
音(きゃにー)「じゃあスープとか飲むよ……」
咲温(さきはる)「うん、そうして」
これでカードを取得できて「簡単だ」と思っていましたが、この後お互いにカードが取れない展開になります。
お互い自分の情報カードのヒントをわかっているので話題を振られても適当にかわすだけの時間と、本当に何も関係ないRP雑談の時間とで議論時間のほとんどがなくなりました。
残り1分でGMが「あまりにもカードが開かれないので判定を緩くします、直接的なワードでも開くようになりますので……」と助け舟を出してくれました。
さて、と思った矢先にきゃにーさん(音)が「咲春はほんとに命の恩人で……」「さきはるの目線が……」とヒントのワードをそのままを連発してきて笑ってしまった。
さらに、私が笑って何も話していなかったのに、にいつの間にかGMが私も情報カードが全部見えるようにしてくれていました。
もうなにもかも滅茶苦茶になっちゃって、議論もカードもなにも正しくできなくて、ずっと笑いが止まらなかったです。
これが平和に笑える最後の時間でした。
④診察パート
HO2のPLのきゃにーさんのみ追加HOが配られ、GMの促しによって「右手の傷が化膿しており病院に受信しなければならないこと」がわかりました。
そして決定権はHO2のきゃにーさんの前提で、「診察室の中までHO1咲春が付き添うか、否か」の議論をすることになりました。
後にGMから「医者設定のキャラなので自分が診察する!とか言われるのかと思い、冷や冷やしました」と言われましたが、さすがにそんなことは言いません……。
とにかく議論が始まりました。
ざっくりとした内容としては、
咲温「あくまで決定するのは音だよ(だけど絶対連れてって欲しいと思っている)」
音「うん、何話されたかはちゃんと伝えるからね」
咲温「医者だから説明はわかるし、ヤブ医者にも捕まらない」
音「私も大人だから大丈夫」
咲温「もし何かあった時、もう親いないじゃん?そうやって第一連絡先(キーパーソン)なったら、私ににしてほしい、だめかな?」
音「ちゃんと大事な友達として咲温の連絡先とか伝えるから大丈夫。病室は私一人で行きたいかな」
全部かわされますが、最後の「大事な``友達``」というのがつらかったです。それ以上にはなれないんだね。
最後の方で
音「昔、咲温のこと助けたときの傷わかる?私はそれを咲温に見られたくないんだよね」
咲温「そっか…そう、だよね……」
ここでキラーワード探すために、HOめっちゃ読み返してます。
咲温「電話してくれたこと覚えてる?」
音「うん」
咲温「『どんな私でも大切にしてくれる?』って聞いてきたじゃん。私、音の傷がどんなだろうと大切にできると思うから。一緒にいたいと思うんだけど」
音「ほんとにどんな私でも受け止めてくれる?」
咲温「もちろん」
の会話が決め手だったのか、この後「じゃあ一緒に行こう、咲温」と診察室に連れて行ってもらえることが決まりました。
ここで連れて行ってもらえなかったら、確実にエンディングで殺害していました。どう説得するかに必死で、別に愛する覚悟は咲温にはありませんでした。
この時点では殺す生かすが7:3くらいでした。
診察に同行し、消えたはずの昔の傷が残っていることに気がつき、目の前のHO2音が自分の知っているHO2音じゃないことが確実になりました。
殺意のたかぶりを感じました。
⑤HO「帰りの車内」+車内パート
咲温が本来帰路で通らない道を運転し、見知らぬ場所で車を止めることで「2人の最期の時間」を過ごすパートです。
ここでHO2の存在を解き明かすタネは冒頭の機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)だと思っていました。
機械仕掛けの神は混雑した謎を神などの超越した存在の闖入により解決してしまう技法です。
これをここに当てはまればSF要素による解決だと思い、
・パラレルワールド説→傷を受ける前のHO2、傷を受けた後のHO2での分岐
・ドッペルゲンガー説
を提唱していました。
HO2音の自白によりどちらも違うことが判明するのですが、ミステリ脳で考えると脱線するとても良い例だと思います。
そして私はナイフを握りしめながら勘違い列車を発進させます。
そのことで音があまりに的外れな推理を聞かされて、「まあいいか……」とすべてを自白してくれました。
HO2音とHO3夢の存在。愛されるためにHO2音を殺してHO2音になり替わろうとしたHO3夢。双子として生まれ、忌み子として育てられたHO3夢。
ここで私が思ったのは「HO1は愛しているのは、HO2音なのか?HO3夢なのか?」ということでした。
見分けがつけられなかったのに、愛しているだなんていえない。
それもあり自白を受けた後「うーん」と唸っていました。殺意は収まりません。
咲温「名前はなんていうの?」
音「わたしの名前は、夢」
咲温「夢。今まで違う名前で呼んでいてごめんね」
この返しは観戦のそんちょさんという方に褒めてもらえたので記載しておきます。
咲温「私がナイフ握ってるのも、音と違うひとだなって思ってるからだしね」
夢「え?今ナイフにぎってんの?」
咲温「ほら、サバイバルナイフ。最初に見つけたやつ」
ここで、ただのナイフがなぜか登山っぽいナイフに変わっています。
咲温「いつの思い出が夢で、いつの思い出が音だったんだろうって。それだけが今不安」
音「うん、そうだね……小学校から大学までずっと繰り返してたからね。私でもわかんないや」
私の中でHO1咲温はどちらを愛しているのか、HO2音のことは本当に愛していなかったのか悩んでいました。
そう話しているうちに、それぞれが結論を出すことになります。
私は結局殺さない選択肢をとりました。
理由は忘れましたが、裏切られなかったことがやはり大きいと思います。
⑥AAエンド
AAエンドにたどり着きました。
『あたたかな幽霊』の作者の文章は癖がないのにとても読ませる文章ですごいなと感じていました。そしてHO1・HO3が幸せに、それぞれ一人の人間として一緒になることができていて心が温かくなりました。
その一方でHO1を担当したPLとしては殺人をしたのにもかかわらず、自分は刑罰を受けていないのが不服でした。HO1の咲温に関してだけは、ずっとずっと苦悩していてほしいと思います。
自陣SS
他のあたたかな幽霊の通過PLがSS書いているのが素敵だと思ったので、私も書けるうちに書きます。
HO1咲温による本編AAエンドHO3出所前のSS。
HO1: 咲温
HO2: 伊集院 音
HO3: 伊集院 夢
人間は死ぬ前に思いを残すため、声という形で「音」を発する。
しかし、人間の五感の中で最も忘れやすいのが聴覚の記憶だという。
医学的根拠はないしどうせ眉唾物だと思っていたが、どうやら本当らしい。数年経った今では音がどんな声をしていたのか全く思い出すことができない。
胸が苦しくなるほど愛おしかった声でも、人はこんなにも簡単に忘れることができるのだ。こうして錆びた金属のように、少しずつ、少しずつ、自分の中の「音」が剥がれ落ちていくのだろう。
煙草に火をつける。
灰色の煙がゆらゆらと空へ揺蕩う。灰色の髪がなびくように、あるいは幽霊がそっと踊るように。
夢が刑を服しに行ってから、今まで以上に夢と音について考える時間が増えた。暇になると人間は碌なことを考えない。
自分が好きなのは、夢なのか?音なのか?それとも、両方なのか?あの思い出の中の人は夢なのか?音なのか?
あらゆる記憶に自信を持てず、自分のことが厭になっていく。
ある時、音か夢かと出かけた日のことを思い出す。
「ねえ、私に似合う眼鏡ってどれだろ?コンタクトめんどくさいんだよねー」
眼鏡屋で様々な眼鏡を試着し「うーん」と唸る彼女。きらきらと目を輝かせて眼鏡を選び、試着して鏡を見て落ち込む、そしてまた眼鏡を選び……そんな様子を見て愛おしさに胸が掻き乱された。
どの眼鏡でも可愛いよ、という言葉を飲み込んで「音が好きになったのにすればいいよ」と話す。
「えー?めんどくさいからあんたが選んでよ」
屈託のない笑顔で言われて、心臓が高鳴る。動揺を隠してひとつの眼鏡をとって「どうかな」とかけさせた。
眼鏡をかけさせる時に指に触れる彼女の髪、肌、温度。どうしても意識してしまう。そのせいで話す声が上擦ってしまっただろうか、とどぎまぎしていたが、
「えー!かわいいー!」と彼女の声が緊張を切り裂いた。
「わたしこれにする!」と飛び跳ねている。
丸縁の眼鏡。綺麗な顔の彼女がかけると少し幼く見える。そんな彼女を見られるのは自分だけ。さらに彼女は今自分の選んだものを身につけている。優越感と支配欲が満たされて思わず笑みが溢れる。
「ねえ、待って」
重い、彼女の言葉。
「え、なに?」
思わず感情のほとんど乗らない声で返事をしてしまった。
何か間違ったことをしただろうか、私の思いがばれただろうか、不快にさせただろうかと先ほどとはまた違う緊張が宿る。
あなたにかける言葉も声色も態度も丁重に選んでいるつもりなのに。それがあなたを嫌にさせるなら、私はあなたの前でどんな私でいたらいいの。
そんな私の緊張を知らないで、彼女は笑った。
「これ、子供の用の眼鏡なんだけど!」
彼女が眼鏡が元置いてあった場所を指さす。「for kids」とでかでかと書かれていた。
「もー!咲温がちゃんと見てよねー!」
けたけたと笑う彼女。「ごめんごめん」と軽く流しながらも、こういう小さな2人だけの楽しい思い出が幸せだと心が温かくなった。
だが、これが音か夢かはわからない。
彼女とたくさん思い出を積み重ねてきたが、どれが夢なのか、音なのかはわからない。よく見て、よく聞けば違和感があったのかもしれない。しかし恋に浮かれている人間にそんな猶予があるはずがない。思い出の殆どは「好きな人」とのもので、ただただ楽しかったことだけが頭に残る。
その楽しかった思い出たちが、今や自分を不確かにするものとして私を責め立てる。なぜ気づけなかったのか。愛が足りないのではないか。
こうして思い悩む時間が多いせいか、うなされることが多くなった。うなされる時は決まって自分が登山している時の夢だ。
テントの中で眠っている。
気配がして目を覚ます。
理解できなかった。
理解できないのは、夢の中だからかもしれない。
ロープを握る彼女が「縛ってほしい」と頼んでくるのだ。「何故」という困惑と彼女を思い通りにしたい劣情が僅かながらだが確かにあった。しかし渾々と湧き出るのは、首を絞めて殺してやりたいという止めどない殺意だ。誰にも先を越されるものか。私が、私が、という先走る気持ちで心臓が高鳴る。そして、彼女に縄をかける。
そこで目が覚めるのだ。起きた時には冷や汗をかいている。まるで凍死寸前のように体が冷えている。そして私は「殺さなくて良かった」と打ち震えるのだが、すぐに「現実で殺してしまった」ことを思い出すのだ。
自分が殺したのにそれを明かさず、夢にすべて背負わせているからこんな夢を見るに違いない。あなたが側にいない間に私はおかしくなってしまわないだようか。医者なのだから、自分で自分を精神分析できたらいいのに。
いつの間にか煙草がほとんど吸えないくらいまで燃えていた。
こんなに1本を大事に吸うなんて、まるで飢えているみたいだと自嘲した。
煙草の火はか弱いが燃え続けている。それをじっと見つめながら、甘いカフェオレを手に取った。
煙草の後の甘いカフェオレは喫煙者にとっては至福の一瞬だ。
煙草の苦味がじんわりと余韻として残る中、カフェオレをひとくち含む。紫煙の苦味をなめらかな甘さが優しく洗い流す。
どんなに考えても、わたしの中の答えはぼやけていく。煙のように掴めない。それならばいっそ手放してもいいかもしれない。自分の悩みや思いを夢に打ち明けてみれば、それがまた新しい思い出になるかもしれない。
紫煙が消えゆく頃、カフェオレの甘さだけが口に残った。
ふと自分が誰を好きなのかわかった。
ーー煙草の後のカフェオレってどんな味か知ってる?
これを、「あなた」はなんて答えるだろうか。
自陣SS「音が消えるまで」
・咲温の狂気山脈ネタ
・音(HO2)の家に灰皿=喫煙者
・夢(HO3)とのカフェパート+甘いもの好き
・縦読み